新潟地方裁判所 昭和28年(行)19号 判決
原告 小田清一 外二名
被告 両津町選挙管理委員会
被告補助参加人 伊藤富太郎 外五名
一、主 文
被告が新潟県佐渡郡両津町々議会解散請求署名簿の署名中別紙第一乃至第五目録記載の者の署名を無効とした決定はこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求めその請求原因として次のとおり陳述した。
原告等は新潟県佐渡郡両津町々議会議員の選挙権を有するものであるが同町議会の解散を請求することを申し合せ、「町村合併に対して反対の方針と行動をとり、町の発展を阻害した。」ということのほか四項目からなる請求の要旨を記載した町議会解散請求書を添え、昭和二十八年六月二十二日被告に対して請求代表者証明書の交付を申請したところ、被告は同日右証明書を原告等に交付し同時にその旨を告示した。そこで請求代表者である原告等は直ちに署名蒐集の運動を開始し、昭和二十八年七月二十一日までに法定数(千七百七十五名)を超える二千百二十名の有権者の署名を得、同月二十四日右署名簿二十三冊を一括して被告に提出し、右署名簿の署名者が両津町の選挙人名簿に記載されている者であることの証明を求めた。被告は右署名簿につき審査を行い、同年八月十二日署名総数二千百二十、有効署名数千九百五、無効署名数二百十五と決定し、同日より両津町役場において右署名簿を縦覧に供した。而して、被告は縦覧期間の最終日である同月十九日に別紙第一乃至第五目録記載の者からの異議申立を含めて総数二百九十二件の異議申立があつたがその後七件の異議申立につき取下の申請があつたとして、二百八十五件の異議申立につき審査をとげ、別紙第三目録(イ)記載の斎藤文治外三名からの異議申立を含む六件については午後五時を経過した後の異議申立であるとの理由でこれ等を不適法とし、別紙第三目録(ロ)記載の畠中サク外二名からの異議申立を含む五十七件については、異議申立を不当としてそれぞれ同年九月二日附でその旨決定したが、別紙第一、第二、第四及び第五目録記載の田村伊太郎外百三十名からの異議申立を含む二百二十二件については、異議申立を正当と認めて同日附で従前の決定を修正し、同月八日右決定を各異議申立人に通知すると共に修正決定の告示をなし、結局有効署名数千七百六十九、無効署名数三百五十一として同日右署名簿を原告等請求代表者に返付したのである。
然しながら、被告の右決定のうちには左に指摘するような違法がある。即ち
第一、別紙第一目録記載の田村伊太郎外七十名の署名につき、被告は、同人等の異議申立に対して、署名蒐集者等の強迫的な言動により自己の意思に反して署名したものであるという異議理由を正当と認め、従前有効としていたこれ等の署名をすべて無効と修正決定したのである。
然し、これ等の異議申立は原告等の町議会解散請求署名蒐集運動に反対する一部の町会議員が、適宜その異議理由を記載した異議申立書によつてなされたものであつて、地方自治法第七十四条の三第二項にいう強迫の事実は全く存しないにもかかわらず、その事実があるものとして漫然右異議理由を正当と認めたのは違法である。
第二、別紙第二目録記載の高野仁喜蔵外五十三名の署名につき、被告は、同人等の異議申立に対して、署名蒐集者等の詐偽的言動により或は署名者本人が解散請求の要旨を誤解したため、自己の意思に反して署名したものであるという、異議理由を正当と認め、従前有効としていたこれ等の署名をすべて無効と修正決定したのである。而して、その異議申立理由の大半は残留議員十六名をリコールするものであつて、補欠選挙によつて当選した議員をも、リコールするものではないという趣旨の虚言に基き署名したものであるというにある。
然し、原告等は昭和二十八年六月五日午後七時約六百名の町民の参集を得て両津町小学校において町民大会を開催し、その際町政の行詰りを招いたのは町議会の責任であるとの理由のもとに残留議員十六名(当時六名の町会議員は既に辞職していた)の辞職を勧告し若しこれに応じない場合は、町議会解散のリコールを行う旨決議し、右事実は当時朝日新聞、毎日新聞、新潟日報、佐渡新報等に掲載せられて全町民の話題となつていたのであるから、署名者が解散請求の要旨を誤解する筈はないのである。また、当時既に六名の町会議員が辞職していたため、補欠選挙を行わなければならない状態にあつたが、原告等の町議会解散請求が成立したならば、補欠選挙により当選した町会議員もその地位を失うことになる点を全町民に周知徹底させる目的で、被告は昭和二十八年六月二十五日附の「両津町議会議員補欠選挙と議会解散請求署名運動について」と題する選挙公報を回覧に供し、補欠選挙と議会解散請求の関係を明かにしたのであるから、署名蒐集者等が残留議員のみをリコールする旨の虚言を弄する筈もなければ署名者等がこの点を誤解する理由もないのである。然るに被告が右の事情を無視して軽々にその異議理由を正当と認めたのは違法である。
なお、被告は、別紙第二目録記載の者の署名がすべて詐偽に基くものでないとしても、同目録(1)乃至(5)記載の高野仁喜蔵外四名の署名については署名蒐集の委任を受けていない者の集めた署名であり、同目録(32)記載の土屋シズの署名については完全な自署でないからいずれも無効であると主張するけれども、右高野仁喜蔵外四名の署名は署名蒐集の委任を受けた奥野金二が三国繁蔵と同道して求めたものであり、土屋シズの署名は自署であるから右の主張は理由がない。
第三、別紙第三目録(イ)、(ロ)記載の斎藤文治外六名の署名につき、被告が昭和二十八年八月十二日自署でないという理由で、これ等の署名を無効と決定したので、同月十九日同人等より右決定に対して異議の申立をしたところ、被告は、同目録(イ)記載の斎藤文治外三名の異議申立については縦覧期間経過後の申立であるという理由で不適法と決定し、同目録(ロ)記載の畠中サク外二名の異議申立についてはこれ等の署名が自署でないという理由でその異議申立を正当でないと決定したのである。
然しながら、斎藤文治外三名の異議申立は縦覧期間内に適法になされたものであつて、右別紙第三目録(イ)、(ロ)記載の七名の署名が自署であることはいずれも明かであるから、被告がこれ等の署名を無効とした違法である。
第四、別紙第四目録記載の小池猪之吉外三名の署名につき、被告は、小池猪之吉の異議申立に対しては、第二に述べたところと同様の異議理由を、坂井ミツ外二名の異議申立に対しては第一に述べたところと同様の異議理由をそれぞれ正当と認め、従前有効としていた、これ等の署名をすべて無効と修正決定したのである。然し、右四名は昭和二十八年八月十九日に異議の申立をしたけれども同年九月二日被告に対して右異議申立の取下申請をしたのであるから、これ等の異議申立は当初よりなされなかつたことに帰するにもかかわらず、被告が右取下申請を無視してその異議申立を正当と認め右四名の署名をすべて無効と修正決定したものでもとより違法である。この点に関して、右四名の異議申立の取下申請は異議申立に対する決定の後になされたものであるから、被告がこれ等の取下を認めなかつたのは正当であると被告は主張するけれども、異議申立に対する決定は、既に述べたとおり、昭和二十八年九月二日附で同月八日に通知及び告示がなされたのであつて、二日にはまだ有効無効の署名数さえ確定していなかつたのであるから、被告の右主張は理由がない。仮に右四名の異議申立の取下申請が認められないものであるとしても、小池猪之吉の異議申立については第二に述べたところと同一の理由で、坂井ミツ外二名の異議申立については第一に述べたところと同一の理由で、これ等の異議申立を認めたのはいずれも違法であるといわなければならない。
第五、別紙第五目録記載の今井テツ及び加藤新作の署名につき、被告は同人等の異議申立を正当と認めて従前有効としていた右両名の署名を無効と修正決定した。
然しながら、右両名は昭和二十八年八月十九日に異議の申立をしたけれども、加藤新作は同月二十六日に今井テツは同月二十八日にそれぞれ被告に対して、右異議申立の取下申請をしたのであるから、これ等の異議申立は当初よりなされなかつたことに帰するにもかかわらず、被告がその後同月三十日に右両名から右取下申立を撤回する旨の申出があつたとして従前の異議申立を正当と認め修正決定したのは違法である。
以上のとおり別紙第一乃至第五目録記載の田村伊太郎外百三十七名の署名に関する被告の決定はいずれも違法であるから、原告等は被告が別紙第三目録(イ)、(ロ)記載の者の署名を無効とした前記決定並びに同第一、第二、第四及び第五目録記載の者の署名を無効と修正した各決定の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第である。
なお、原告等訴訟代理人は被告補助参加人等の主張に対して次のとおり陳述した。
本件訴訟手続は準備手続を経たものであるから原則として、準備手続終結後においては準備手続において主張しなかつた新しい事実を主張することはできない筈である。然るに被告補助参加人等の主張は、いずれも口頭弁論において新しく主張せられたものであるから不適法として排斥せられるべきものである。
而も被告は既に本訴において署名簿が適式であることを認めて個々の署名の無効を主張しているのであるから、被告補助参加人等が署名簿の瑕疵を主張することは被参加人たる被告の訴訟行為と牴触して効力を生じないといわなければならない。
仮りにそうでないとしても、被告補助参加人等の主張事実は次に述べるとおり本件署名簿の署名の効力を左右する事由とはならない。
(一) 原告等は一号から三十号まで合計三十册の署名簿を被告に一括提出したのであるが、全然署名を蒐集していない。被告補助参加人等主張の七冊は不要であると被告から返付されたので、これ等を除いて二十三を提出することにしたのであつて、その結果各署名簿の表紙番号に欠番が生じたけれども、各署名簿を通じて個個の署名に一連の番号が記載されているから、右二十三册の提出をもつて一括提出とみることは何等差支えない。
(二) 署名年月日が前後しているのは、一般に冒頭に署名することを好まずこれを避ける結果、冒頭の部分には後日知名人の署名を貰つて充足するという風習に基くものであるが、かかる事情を考慮すれば署名年月日が前後しているからといつて、直ちに署名の連続を欠く不適法な署名簿とはいえない。
(三) 署名年月日欄に署名年月日の記載のない署名があつても、その前の署名に年月日の記載があれば、以下同日と推測できるから、署名年月日欄に署名年月日の記載がないからといつて、直ちに署名簿が不適式なものとなるものではない。
(四) 解散請求代表者が署名蒐集受任者等の氏名及び委任年月日を当該普通地方公共団体の長に届け出なかつたとしても、受任者等の属する被告委員会には届け出ているのであるから、この瑕疵をもつて直ちに委任の効力を否定しこれ等受任者の氏名を記載してある署名簿を不適法と断ずることはできない。
以上のように被告補助参加人等の主張はいずれの点から判断しても理由がないから、採用するに由ないものといわなければならない。被告訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。原告等の主張事実中、原告等が両津町々議会議員の選挙権を有するものであつて、同議会解散請求代表者となり原告等が主張するような手続を経てその主張のとおりの署名を蒐集し、その主張の日に署名簿二十三册を被告に提出して署名の審査証明を求めたこと、被告が右署名簿につき審査のうえ昭和二十八年八月十二日にその主張のような有効無効の決定をなし同月十九日まで右署名簿を縦覧に供したところ、同日その主張のような異議申立があつたが主張どおりの経緯により、同年九月二日附をもつて、それぞれ異議申立に対する決定をなし、同月八日右修正決定に基く有効無効の署名数を告示すると共に原告等に署名簿を返付してこれを通知したこと、別紙第一、第二、第四及び第五目録記載の田村伊太郎外百三十名の署名については、同人等の異議申立を正当と認めて従前有効としていた、右の者等の署名をすべて無効と修正決定し、同第三目録(イ)記載の斎藤文治外三名の署名については同人等の異議申立が期間経過後になされたものであるから、不適法であるとの理由で右の者等の署名を無効とした従前の決定を維持し、同第三目録(ロ)記載の畠中サク外二名が署名については同人等の異議申立を不当と認めて前同様右の者等の署名を無効とした従前の決定を維持したこと、及び別紙第四、第五目録記載の小池猪之吉外五名から原告等主張の日に、それぞれ異議申立の取下申請があつたことはいずれもこれを認めるが、その余はすべてこれを争う。
原告等は、被告が昭和二十八年九月八日修正決定に基く有効無効の署名数を告示し本件署名簿を原告等に返付した事実から、異議申立に対する決定が同月二日附で八日になされたものであると主張するけれども、被告は九月二日に異議申立に対する審査決定を終了し同日附で同月四日に各異議申立人に右決定の通知を発したので各異議申立人は少くとも同月六日までにはその通知を受取つた筈である。ただ、被告は異議申立に対する審査の際従前有効としていた千九百五名の署名の中四名の署名が重複し一名の署名が無資格者によつてなされたものであることを新に発見し、右五名の署名を無効と修正すべきか否かにつき新潟県選挙管理委員会に問い合せていたので、修正決定に基く確定的な有効無効の署名数を告示し原告等請求代表者に署名簿を返付するのが遅れて九月八日になつたまでのことである。
而して、原告等が主張する本件別紙第一乃至第五目録記載の右の署名は次に述べるとおりすべて無効であるから、被告がこれ等をすべて無効と決定したことには何等違法な点はない。
第一、別紙第一目録記載の田村伊太郎外七十名の署名については、同人等より同目録記載の趣旨の理由を掲げた適法な異議の申立があり、田村伊太郎外三十名の証言を求めて審査した結果、これ等の署名はいずれも署名蒐集者等の町内における地位やこれ等の者との利害関係から署名に応じなければ爾後の生活に少なからざる支障を来す惧れがあることを慮り、真意に反してなされたものであることが認められたので、従前有効としていたこれ等の署名をすべて無効と修正決定したのである。地方自治法第七十四条の三第二項にいう強迫に基く署名とは、署名者を畏怖せしめる積極且つ具体的な言動に基く署名に限らず、前記認定のように署名者が相手方の地位その他を考慮して真意に反した署名をした場合も含まれると解すべきであるから、被告が前記認定に基き右署名をすべて無効と修正したことは正当である。
第二、別紙第二目録記載の高野仁喜蔵外五十三名の署名については、同人等より同目録記載の趣旨の理由を掲げた適法な異議の申立があり、中田千秋外二十一名の証言を求めて審査した結果、これ等の署名がいずれも地方自治法第七十四条の三第二項にいう詐偽に基くものであると認められたので、従前有効としていたこれ等の署名をすべて無効と修正したのである。即ち、署名蒐集者等は、町民の大部分が政治意識に乏しいことを奇貨として、「残留議員十六名だけをリコールするものであつて、補欠選挙で新に選出された議員はリコールしない。」とか「善良な議員をリコールするものではない。」など、詐偽的な言辞を弄し或は町政の非を針小棒大に吹聴して署名を求めたので、署名者等は町議会解散請求の意義を誤解し或は解散請求の要旨を曲解して真意に反する署名をしたのであつて、署名者等がそれ等の虚言を真実であると誤信したために署名した場合は、地方自治法第七十四条の三第二項にいう詐偽に基く署名に該当すると広く解すべきであるから、被告が前記認定に基き右署名をすべて無効と修正したことは正当である。
なお、原告等は、町民大会を開催して町議会解散請求を行うことを決議したこと、その事実を当時の新聞が報道したこと、及び被告が補欠選挙によつて当選した町会議員もリコールの対象になるものであることを町民に明かにするため「両津町会議員補欠選挙と議会解散請求署名運動について」と題する選挙公報を回覧に供したことを理由に、署名蒐集者等が異議理由に掲げられているような虚言を弄する筈もなければ署名者等がこの点を誤解し或は解散請求の要旨を曲解するわけもないと主張する。然し、町民大会に参集したのは近郊の他村民も合せて五百名程度で両津町有権者総数の一割に満たない状況であつて、新聞も町内の全家庭に普及しているわけでなく、回覧板も一ケ所に十数日も停滞していることが例であるから、町政に関心の薄い大多数の町民にとつては、原告等主張の事実は署名者等がリコールの意義を正しく認識し或は解散請求の要旨を理解したうえで署名に応じたものと推測させるのに何等役立つものとは考えられない。
また、仮にこれ等の署名が詐偽に基くものでないとしても別紙第二目録(1)乃至(5)記載の高野仁喜蔵外四名の署名は署名蒐集の委任を受けていない者の集めた署名であり、同目録(32)記載の土屋シズの署名は完全な自署とはいえないから、結局右六名の署名を無効とした被告の決定は正当である。
第三、署名簿の署名に関する異議申立は公職選挙法第二百七十条の二の準用により午後五時までになされるべきであるところ、別紙第三目録(イ)記載の斎藤文治外三名の異議申立は縦覧期間の最終日である昭和二十八年八月十九日中になされたものの同日の午後五時を経過してなされたので、被告はこれ等の異議申立を不適法として却下したのである。従つて、被告が同人等の署名を自署でないから無効であるとした従前の決定は確定し、最早修正が許されないわけであるから、結局被告が同人等の署名を無効としたことは適法である。
また別紙第三目録(ロ)記載の畠中サク外二名の署名については、被告が自署でないと認めてこれ等を無効と決定したところ同人等より適法な異議の申立があつたので、同人等が自署したと称する異議申立書の署名と署名簿の署名を照合鑑査した結果、いずれも同一筆蹟とは認められなかつたのでその異議申立を不当としたものであつて、被告がこれ等の署名を無効としたのは正当である。
第四、別紙第四目録記載の小池猪之吉外三名の署名については、同人等より同目録記載の趣旨の理由を掲げた適法な異議の申立があつたので、小池猪之吉の署名については第二で述べたところと同一の理由で、坂井ミツ外二名の署名については、第一で述べたところと同一の理由でそれぞれその異議申立を正当と認め、従前有効としていたこれ等の署名をすべて無効と修正したのである。
同人等より昭和二十八年九月二日に異議申立の取下申請があつたことは、原告等主張のとおりであるが、右取下申請書はいずれも被告において、既に同人等の異議申立に対する審査決定を終えていた午後四時十分頃被告に提出せられたので、その取下を認めないこととして前記のとおりすべて無効と修正したものであつて、原告等が主張するような違法な点はない。
第五、別紙第五目録記載の今井テツ及び加藤新作の署名については、右両名より同目録記載の趣旨の理由を掲げた適法な異議の申立があつたので、いずれも第一で述べたところと同一の理由でその異議申立を正当と認め、従前有効としていた右両名の署名を無効と修正したのである。
加藤新作よりは昭和二十八年八月二十六日に、今井テツよりは同月二十八日にそれぞれ異議申立の取下申請があつたことは原告等主張のとおりであるが、被告において右取下申請の適否やこれを認めるか否かにつき未だ決定していない同月三十日に右両名から取下申請を撤回する旨の申出があつたので、異議申立の取下申請はなかつたものとして前記のとおり各異議申立を正当と認めたものであつて、これまた原告等が主張するような違法な点はない。
以上のとおりであるから、被告が本件係争の署名を全部無効と決定したのは正当であつて、原告等の本訴請求は理由がない。
被告補助参加人等訴訟代理人は、本件署名簿の瑕疵を理由として、次のとおり陳述した。
そもそも、町議会解散請求署名簿は地方自治法施行規則の定める様式を備え、且つ地方自治法施行令の定める成規の手続に従い署名を蒐集して町選挙管理委員会に提出されなければならないものであるところ、本件署名簿は次に述べるとおり成規の手続によらない違式の署名簿であつて、かかる署名簿になされた署名はすべて当然無効といわなければならないから、被告が本件係争の署名を全部無効としたことに誤りはない。
(一) 本件署名簿はもともと第一号簿より第三十号簿までの三十册に分册されていたものであるが、原告等が昭和二十八年七月二十四日被告に提出したのは原告等において認めるとおり二十三册であつて、第三号、第七号、第十九号、第二十一号、第二十四号、第二十八号及び第二十九号の各署名簿は提出されなかつた。
従つて、署名簿が分册されている場合は一括提出しなければならないという地方自治法施行令第九十四条第一項、第百条の規定に違背しており、結局法定期間内に被告に対して署名簿が提出されなかつたことになるから本件署名簿は不適法なものといわなければならない。
(二) 地方自治法施行令によれば、町議会解散請求代表者は、署名蒐集の委任をしたときは、直ちに受任者の氏名及び委任年月日を文書をもつて、町長及び町選挙管理委員会に届け出なければならないのであるが、原告等請求代表者は、署名蒐集受任者のすべてにつき、被告に対してのみ右届出をなし、町長に対しては届け出ていない。従つて、右受任者等によつて蒐集せられた個々の署名が全部無効であることはもとより、右のとおり成規の手続を経ないで各署名簿に原告等の委任状を添付し署名の蒐集がなされた本件署名簿は不適法である。
(三) 本件署名簿の署名年月日欄を検討すると、
(1) 第二号簿中二百三十九番の署名が七月四日であるにもかかわらず、二百四十番乃至二百五十四番の署名は六月六日であり、
(2) 第六号簿中六百八番の署名が六月三十日であるにもかかわらず、六百九番乃至六百六十二番の署名は六月二十八日であり、
(3) 第十五号簿中千三百七番の署名が七月二日であるにもかかわらず、千三百八番の署名は六月二十四日であり、
(4) 第二十五号簿中千八百四十九番の署名が七月三日であるにもかかわらず、千八百五十番乃至千八百五十七番の署名は七月二日であり、
署名年月日の順序が一連番号の順序と一致せず前後している。従つて、右の事実と(一)において述べたところの第三号、第七号、第十九号、第二十一号、第二十四号、第二十八号及び第二十九号の各署名簿が被告に提出されていない事実とを彼此勘案すれば、署名の連続を欠くものといわなければならないから、本件署名簿は成規の方式に違背する不適法なものである。
(四) また、本件署名簿の署名中、
(1) 第一号簿の四十四番より百七十七番まで、
(2) 第四号簿の三百三十八番より四百十五番まで、
(3) 第五号簿の四百十六番より四百二十四番まで及び五百三番より五百九十九番まで、
(4) 第六号簿の六百九十三番より七百九番まで及び七百五十八番より七百六十七番まで、
(5) 第八号簿の七百六十八番、七百八十六番、及び七百八十八番より九百四番まで、
(6) 第九号簿の九百五番より九百二十八番まで全部、
(7) 第十号簿の九百二十九番より九百四十三番まで全部、
(8) 第十二号簿の千六十一番より千七十一番まで、千七十八番より千八十二番まで及び千八十五番より千二百三番まで、
(9) 第十三号簿の千二百二十九番より千二百八十三番まで、
(10) 第十五号簿の千三百二十六番より千三百三十八番まで、千三百七十一番より千三百七十九番まで及び千三百八十二番より千三百八十五番まで、
(11) 第十七号簿の千四百六十四番より千四百八十番まで、
(12) 第二十二号簿の千七百二十一番より千七百二十八番まで及び千七百六十五番より千七百七十三番まで、
(13) 第二十三号簿の千七百七十六番より千七百八十三番まで及び千八百十二番より千八百三十一番まで、
(14) 第二十六号簿の二千二十七番より二千三十二番まで
の各署名には署名年月日の記載がない。(但し、第一号簿の百五番の署名には「〃」の記載があり、第九号簿の冒頭に「七月五日より」の記載がある。)このように多数の署名に署名年月日の記載がない場合はあたかも署名簿に署名年月日欄の記載がない場合と同視すべきであるから、本件署名簿は法定の様式を具備しない不適法な署名簿といわなければならない。
以上のとおり(一)乃至(四)のいずれの点よりこれをみても本件署名簿が不適法であることは明かであるから、かかる署名簿になされた本件係争の署名はすべて無効であつて、署名簿が適法であることを前提とした原告等の主張は失当である(各証拠省略)。
三、理 由
原告等が両津町町議会議員の選挙権を有するものであつて、同議会解散請求代表者となり、原告等主張のような手続を経て昭和二十八年七月二十一日までに二千百二十名の署名を蒐集し、同月二十四日に署名簿二十三册を被告に一括提出して署名の審査証明を求めたところ、被告が同年八月十二日に署名総数二千百二十、有効署名数千九百五、無効署名数二百十五と決定して翌日より同月十九日まで右署名簿を縦覧に供したこと、右縦覧期間の最終日である同月十九日に別紙第一乃至第五目録記載の者からの異議申立を含めて、総数二百九十二件の異議申立があつたが、その後七件の異議申立につき取下申請があつたので、被告が二百八十五件につき審査のうえ、原告等主張のように六件につき不適法、五十七件につき不当、二百二十二件につき正当とそれぞれ同年九月二日附で決定して右二百二十二名の署名の効力を修正し、結局有効署名数千七百六十九、無効署名数三百五十一として同月八日に右署名簿を原告等に返付したことはいずれも当事者間に争がない。
そこで順次本件争点について判断する。
第一、被告補助参加人等の主張に対する原告等の訴訟上の抗弁について、
(一) 原告等は、被告補助参加人等の主張は準備手続終結後に新しくなされたものであるから、不適法として却下されるべきものであると主張する。而して、被告補助参加人等の主張がすべて準備手続終結後口頭弁論において新になされたものであることは明かであつて、且つ重大な過失なくして準備手続において提出できなかつたことについて何等疎明がない。然しながらこれ等の主張が著しく訴訟手続を遅延させるものとは認め難いから原告等の申立を採用しないこととする。
(二) また原告等は、被告は本件署名簿が成規の手続による適式なものであることを認めて個々の署名の無効を主張しているのであるから、被告補助参加人等が本件署名簿の瑕疵を主張することは被参加人(被告)の主張と牴触すると主張するけれども、本件係争の署名が無効であるとの主張を理由あらしめる新な攻撃防禦方法として被告補助参加人等が署名簿の瑕疵を主張することは、何等妨げないものと解すべきであるから、原告等のこの点に関する主張は採用することができない。
第二、被告補助参加人等の主張についての判断
本件署名簿は当初第一号簿より第三十号簿まで三十册に分册されていたが被告補助参加人等の主張する七册を除いた二十三册を原告等が被告に一括提出したこと、原告等が署名蒐集受任者の氏名及び委任年月日を町長に届け出なかつたこと、本件署名簿の署名中被告補助参加人等の主張する各署名の署名年月日がその主張のとおり、一連番号の順序と前後していること及び被告補助参加人等の主張する各署名の署名年月日欄に署名年月日の記載がないことは、いずれも原告等の争わないところである。そこで被告補助参加人等が主張するように本件署名簿が成規の手続を経ていない不適式なものであるかどうかを判断する。
(一) そもそも署名簿が二册以上に分れているときは一括して提出しなければならないと規定する。地方自治法施行令第九十四条第一項の趣旨は、選挙管理委員会の署名審査事務の混乱を避けるため署名簿の追加提出を禁止することにあつて、署名蒐集に際して作成した署名簿全部の提出を要求するものではないと解すべきである。従つて、本件においては、各署名に一連番号を付してある二十三册の署名簿が一括して被告に提出され爾後追加提出のなかつたことにつき争がない以上、当初原告等の作成した署名簿が三十册であつたか否かにかかわらず、適法な署名簿の提出があつたものといわなければならない。
(二) 地方自治法施行令第百条によれば、条例制定又は改廃請求の場合における署名蒐集の委任手続に関する同令第九十二条第三項の規定が議会解散請求の場合に準用されることになるが、同項に「地方公共団体の長」とあるのは「当該普通地方公共団体の選挙管理委員会(当該請求は都道府県又は地方自治法第百五十五条第二項の市に関する場合に限る。)」と読み替えなければならない。即ち、都道府県又は地方自治法第百五十五条第二項に規定する市の議会解散請求に関する場合は、署名蒐集の委任につき、請求代表者は、受任者の氏名及び委任年月日を当該普通地方公共団体の選挙管理委員会及び受任者の属する市町村の選挙管理委員会に届け出なければならないが、その他の一般の市町村に関する場合は、受任者の属する市町村の選挙管理委員会に届け出るだけで足るものといわなければならない。本件にあつては、両津町町議会解散請求の場合であるから、右届出は被告委員会に対してこれをすれば足り、町長に対する届出は必要でないと解すべきところ、被告委員会に対する届出がなされたことについて争がない。本件署名蒐集委任の届出については、何等法令違反の点は存しない。従つて、町長に対する右届出が必要であるという前提に立つ被告補助参加人等のこの点に関する主張は理由がない。
(三) 被告補助参加人等は、本件署名簿には第三号、第七号、第十九号、第二十一号、第二十四号、第二十八号及び第二十九号の欠番があり、個々の署名にはその指摘するような署名年月日の前後するものがあるから、署名の連続を欠くものであると主張するけれども、署名簿を分册して署名が蒐集せられた場合、署名簿各册の番号は単なる符号にすぎないものであるから、これに欠番があつたとしても該署名簿の署名の連続に消長を来すものではなく、また、署名簿の各册に記載されている署名と署名との行間に著しい空白がなく(尤も、分册して署名を蒐集すれば各册の末尾に空白ができることは止むを得ないであろう。)、各册を通じて個々の署名に一連番号が施されている以上、個々の署名の署名年月日が前後していて一連番号の順序と一致しない点があるとしても、これのみをもつて直ちに署名の連続を欠くものということはできない。従つて、署名の連続を欠く旨の被告補助参加人等の主張も採用に値しない。
(四) また、被告補助参加人等は、本件署名簿の署名中にその主張する各署名の署名年月日欄に署名年月日の記載がないことを理由として、署名年月日欄がないのに等しいから、本件署名簿は法定の様式を具備しない不適法な署名簿であると主張するけれども、署名年月日欄がないことと署名年月日の記載がないこととは自ら別問題であつて、署名年月日の記載がないからといつて署名年月日欄がない署名簿と同視する謂わないから、署名年月日の記載がないことを理由として、当該署名の個々の無効を主張するならば格別、署名簿の様式が不適法であると主張することは当を得ない。なお、署名簿の署名年月日欄に署名年月日の記載がない署名は不適法な署名であると一応いい得るけれども、本件の如く成規の手続を経て署名の蒐集を開始し、該署名簿が法定期間内に適法に選挙管理委員会に提出され、且つ署名年月日の記載がない署名の前後に署名年月日の記載のある署名があり、而もそれ等が一連番号で連ねられていることが当事者間に争ない場合には、反証のない限り署名運動期間内に蒐集された署名と推定するのが妥当であるといわなければならない。従つて、仮に被告補助参加人等の主張が個々の署名の効力を争う趣旨であるとしても、その主張する各署名が法定期間外に蒐集せられたものであることについては何等の立証もないのであるから、いずれにしても被告補助参加人等の右主張は認容するに由ないものである。
以上のとおり、本件署名簿が成規の手続によらない不適式なものであるから、本件係争の署名は全部無効であるという被告補助参加人等の主張はすべて理由がない。
第三、被告の主張についての判断
別紙第一、第二、第四及び第五目録記載の田村伊太郎外百三十名の署名につき被告が同人等の異議申立を正当と認めて、従前有効としていた、右の者等の署名をすべて無効と修正決定したこと、同第三目録(イ)記載の斎藤文治外三名の署名につき被告が同人等の異議申立を不適法として却下し右の者等の署名を無効とした従前の決定を維持したこと、同第三目録(ロ)記載の畠中サク外二名の署名につき、被告が同人等の異議申立を不当と認めて右の者等の署名を無効とした従前の決定を維持したこと、及び別紙第四、第五目録記載の小池猪之吉外五名から原告等主張の日に被告に対してそれぞれ異議申立の取下申請がなされたことは、いずれも当事者間に争がない。
そこで本件係争の右の者等の署名が果して被告の決定どおり無効であつて被告の右決定が正当であるかどうかを判断する。
(一) 別紙第一、第二目録記載の田村伊太郎外百二十四名の署名について
被告は、別紙第一目録記載の田村伊太郎外七十名の署名は強迫に基くものであり、同第二目録記載の高野仁喜蔵外五十三名の署名は詐偽に基くものであるから、いずれも無効であると主張するけれども、成立に争のない乙第一号証の一乃至八十二(但し、乙第一号証の三、五、七、二十、三十二、四十二、五十一、五十三、五十五、七十九及び八十はいずれも除く)、第二号証の一乃至五十九(但し、乙第二号証の十三、十六、十七、三十二及び五十八はいずれも除く)中右主張に副うごとき記載部分は後記各証言に照らし各本人の真意に出で記載されたものとは認められないし、証人榎トクの証言はにわかに措信し難く、その他の被告提出援用の全証拠によつても何等詐偽強迫の事実は認められないのみならず、かえつて、成立に争のない甲第一号証、別紙第一、第二及び第五証人名簿記載の証人の各証言(但し証人榎トクの証言を除く)及び原告小竹義雄同斎藤茂太郎各本人の尋問の結果を綜合すれば、右田村伊太郎外百二十四名の署名は何等詐偽強迫に基いてなされたものでないことが認められる。尤も、右各署名のうちには署名蒐集者との個人的な関係から社交的儀礼として署名に応じ、また解散請求の要旨を深く批判することなく漫然署名し、或は町議会解散請求の意義を正しく理解していなかつたために、補欠選挙で選ばれる議員はリコールの対象にならないと誤解してなされたもののあることが窺われないこともないが、地方自治法第七十四条の三第二項は直接請求の公正な運用を期するため署名蒐集に際して違法な手段が用いられることを防止せんとするもので、右のごとき署名までこれを無効とする趣旨のものではないと解するのが相当である。
次に、被告は、仮に右の署名が詐偽強迫に基くものであると認められないとしても、別紙第二目録(1)乃至(5)記載の高野仁喜蔵外四名の署名は署名蒐集の委任を受けていない者の集めた署名であり、同目録(32)の土屋シズの署名は自署でないから、結局いずれも無効であると主張するけれだも、右高野仁喜蔵外四名の署名については、この点に関する証人高野仁喜蔵、高野久子、高野トセ、高野徳久及び高野シズの各証言は措信できず、証人奥野伊代治の証言によれば署名蒐集の委任を受けている奥野金二が三国繁蔵に同伴して求めた署名であることが認められ、土屋シズの署名については、証人土屋シズの証言によれば「シズ」の二字が自署であることが認められ苟くもその名を署名した以上その姓を自ら書かなかつたとしても自署というにはばかりないものであるから、右の仮定的主張も理由がないといわなければならない。
(二) 別紙第三目録(イ)、(ロ)記載の斎藤文治外六名の署名について
別紙第三目録(イ)記載の斎藤文治外三名の異議申立は縦覧期間経過後になされたものであるから不適法であると被告が主張するので、先づこの点につき判断することとする。右四名の異議申立が縦覧期間の最終日である昭和二十八年八月十九日中になされたものであることは前記のとおり当事者間に争がない。而して、被告は、署名簿の署名に関する異議申立については公職選挙法第二百七十条の二が準用されると解すべきであるから、右異議の申立は午後五時までになされなければならないと主張するけれども、行政庁の処分に対する不服申立方法としての異議の申立や訴願は同条にいう届出、請求、申出等とその性質を異にし同条にいう届出、請求、申出等に包含されないものと解すべく、従つて本件異議については被告主張の如き規定の適用がないものであるから、本件異議申立期間(縦覧期間)の計算方法は民法の規定によるものと解すべきである。従つて、右四名の異議の申立が縦覧期間即ち、異議申立期間の最終日である昭和二十八年八月十九日中になされたことにつき、当事者間に争がない本件においては、被告が該異議申立を同日の午後五時を経過していたという理由で縦覧期間経過後の申立であるとしてこれを却下したことは違法であるといわなければならない。
そこで、別紙第三目録(イ)記載の斎藤文治外三名の署名については、いずれも自署でないから無効であるとした被告の決定に対して適法な異議の申立があつたことになるから、被告が自署でないから無効であると主張する別紙第三目録(ロ)記載の畠中サク外二名の署名とともに、自署であるかどうかの点を判断する。いずれも署名簿たることに争なく証人風間リン、吉田タツ、畠中サク、斎藤文治、中川ヒデ子、岩岬タツ及び中村クラの各証言により同人等の署名部分が真正に成立したと認められる甲第二号証、第四号証及び第五号証中の同証人等の当該署名部分と同証人等の各証言を綜合すれば、別紙第三目録(イ)、(ロ)記載の斎藤文治外六名の署名はいずれも同人等が自署したものであることが認められ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
以上のとおりであるから、右七名の署名についての被告の主張はすべて認容できない。
(三) 別紙第四目録記載の小池猪之吉外三名の署名について
別紙第四目録記載の小池猪之吉外三名の署名につき、昭和二十八年八月十九日同人等から同目録記載の趣旨の異議理由を掲げた適法な異議の申立があつたが、その後同年九月二日同人等から右異議申立の取下申請があつたことは前述のとおり当事者間に争のないところである。而して、右異議申立の取下申請はいずれも被告において、既に同人等の異議申立に対する審査決定を終了していた九月二日の午後四時十分頃なされたものであつて有効なものとは認められないから、被告が右異議申立の取下申請を斟酌することなく同人等の異議申立を正当と認めて従前有効としていた同人等の署名をすべて無効と修正したことは正当であると被告が主張するので、先ず右異議申立の取下申請が果して被告の主張するとおり無効なものであるかどうかの点を判断する。署名簿の署名に関する異議の申立は関係人の自由意思を委ねられており、且つ異議の申立があつた以上その取下は絶体に許されないものであると解すべき何等の理由もないから、異議申立に対する選挙管理委員会の決定が発効するまでは当該異議申立人において随時これを取り下ることができるものと考える。而して、証人浜昌雄の証言によれば本件異議申立に対する決定が各異議申立人に通知されたのは九月四日或はそれ以後であることが認められるから、たとい被告委員会において既に事実上審査を終了していたとしても、未だ各異議申立人に対する決定の通知がなかつた九月二日になされた小池猪之吉外三名の異議申立の取下申請は、適法なものといわなければならない。従つて、右取下申請により同人等の異議申立はなかつたと同一に帰し、同人等の署名は既に被告が当初決定したとおり有効と確定し最早これを修正することが許されないにもかかわらず、被告が同人等の異議申立に基いてそれ等の者の署名を無効と決定し従前の署名の効力を修正したのは誤りであるから、右各署名につき被告が主張するような詐偽強迫の事実が存在するかどうかを判断するまでもなく、被告の右決定は既にこの点で違法たるを免れないものである。
(四) 別紙第五目録記載の今井テツ及び加藤新作の署名について
別紙第五目録記載の今井テツ及び加藤新作の署名につき昭和二十八年八月十九日右両名から、適法な異議の申立があつたが、その後加藤新作からは同月二十六日今井テツからは同月二十八日にそれぞれ右異議申立の取下申請があつたことについては前叙のとおり当事者間に争がない。ところで、異議申立に対する決定があるまでは、当該異議申立人において随時その異議申立を取り下げることができ、取下によつて異議申立がなかつたことに帰着するから従前の決定が確定し最早従前決定された署名の効力を修正することが許されないことは既に述べたとおりである。従つて右両名の異議申立の取下申請により従前被告の為した同人等の署名に対する決定は確定したものといわねばならない。然るに、被告は、右両名から八月三十日更にその異議申立の取下申請を撤回する旨の申出があつたので、異議申立の取下申請はなかつたものとして各異議申立を正当と認める決定をなし、右両名の署名を無効と修正したものであると主張するけれども異議申立の取下は、被告委員会にその取下申請書が提出されたとき直ちに効力を生じ、異議申立はなかつたことに帰するから、一旦適法に取下申請がなされた以上、異議申立期間中に改めて異議の申立をするならば格別、最早取下申請の撤回を認めて従前の異議申立に対する決定をすることは許されない。従つて、本件異議申立の取下申請を撤回する旨の申出が前示異議申立期間経過後たる昭和二十八年八月三十日になされたにかかわらず、該撤回の申出があつたことを理由に右両名の異議申立に基きこれ等の者の署名を無効と決定し従前の署名の効力を修正したのは誤りであるから、これまた被告が主張するような無効事由が存在するかどうかの判断をまつまでもなく、被告の右決定は違法であるといわなければならない。
以上述べてきたところで明かなように、被告及び被告補助参加人等の主張はすべて理由がなく、別紙第一乃至第五目録記載の田村伊太郎外百三十七名の署名を無効とした被告の各決定は違法であつて取り消されるべきであるから、原告等の本訴請求をすべて認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 吉井省己 三和田大士 入江正信)
(別紙目録省略)